「メラトニン」と聞くと、睡眠を整えるホルモンというイメージを持つ方が多いかもしれません。
しかし近年の研究では、メラトニンには強力な抗酸化作用があり、卵子の質の維持や妊娠率の向上、さらには卵巣の老化予防に役立つ可能性があることが分かってきています。
今回は、生殖医療の分野で注目されているメラトニンの働きについて分かりやすく解説します。
〇メラトニンとはどんな物質?
メラトニンは脳の松果体から分泌されるホルモンで、主に睡眠や体内時計を調整する働きを持っています。
昼間は分泌が少なく、夜になると分泌量が増えるため、「睡眠ホルモン」とも呼ばれています。
しかし1990年代以降、メラトニンには睡眠以外にも重要な作用があることが明らかになりました。
それが「抗酸化作用」です。
〇老化の原因となる酸化ストレス
私たちの体では日々エネルギーが作られる過程で活性酸素が発生しています。
活性酸素は適量であれば体に必要な物質ですが、過剰になると細胞やDNA、ミトコンドリアを傷つけ、老化やさまざまな病気の原因になります。
この状態を「酸化ストレス」と呼びます。
メラトニンは活性酸素を除去する能力が非常に高く、細胞膜やミトコンドリア、さらには細胞核の中まで入り込んで酸化ストレスから細胞を守ることができます。
そのため近年では、アンチエイジング分野でも大きな注目を集めています。
〇卵子は酸化ストレスに弱い
女性の卵子は非常にデリケートな細胞です。
特に排卵前には卵胞内で活性酸素が増加し、卵子に酸化ストレスがかかることが分かっています。
実際に研究では、酸化ストレスの指標である「8-OHdG」が高い卵子ほど受精率が低いことが確認されています。
一方で、卵胞液中のメラトニン濃度が高いほど酸化ストレスは少なく、メラトニンが卵子周囲の重要な抗酸化因子として働いている可能性が示されています。
〇メラトニンは卵子をどのように守るのか?
動物実験では、メラトニンによって卵子のさまざまな機能が保護されることが確認されています。
具体的には、
・活性酸素の減少
・DNA損傷の軽減
・ミトコンドリア機能の保護
・脂質過酸化の抑制
・細胞死(アポトーシス)の抑制
などが報告されています。
つまりメラトニンは単に酸化ストレスを減らすだけでなく、卵子そのものの健康を守る働きを持つと考えられています。
〇体外受精(IVF)での効果
近年では、体外受精を受ける患者さんへのメラトニン投与も研究されています。
採卵前の約1か月間メラトニンを内服すると、卵胞液中のメラトニン濃度が上昇し、酸化ストレスが低下することが確認されています。
さらに、
・受精率の向上
・妊娠率の向上
・胚盤胞到達率の改善
が報告されており、特に過去に体外受精がうまくいかなかった方や受精率が低い方で効果が高い可能性が示されています。
また、卵子を取り巻く顆粒膜細胞の遺伝子発現も改善し、妊娠しやすい状態に近づくことが確認されています。
〇卵巣の老化を遅らせる可能性
さらに興味深いのは、メラトニンが卵巣の老化そのものを遅らせる可能性です。
動物実験では、長期間メラトニンを投与した群で、
・排卵数の維持
・受精率の維持
・胚盤胞到達率の維持
が認められました。
また、
・サーチュイン遺伝子
・テロメア関連因子
・DNA修復機能
など、老化に深く関わる分子にも良い影響が認められています。
これは、人間でいう「卵巣年齢」を若く保つ可能性を示唆する非常に興味深い結果です。
〇解決すべき課題
一方で、現時点での研究にはまだ課題もあります。
体外受精においては一定の有効性が示されていますが、妊娠成立後や胎児への影響については十分なデータがありません。
そのため現在の臨床研究では、メラトニン投与は採卵までに限定されることが一般的です。
また、
・最適な投与量
・投与期間
・どのような患者さんに効果が高いか
といった標準的な治療プロトコールもまだ確立されていません。
☆まとめ
メラトニンは睡眠を整えるホルモンとして知られていますが、近年では強力な抗酸化作用によって卵子や卵巣を保護する可能性が注目されています。
特に体外受精においては、受精率や妊娠率の向上が報告されており、今後の生殖医療における重要な選択肢となる可能性があります。
また、卵巣の老化予防という観点からも非常に興味深い研究が進んでいますが、長期投与の安全性や最適な使用方法については今後さらなる研究が必要です。
妊活や将来の妊娠を考えている方にとって、「卵子の質を守る」という視点はますます重要になっています。今後、メラトニンがそのサポート役として活躍する日が来るかもしれません。
統括部長 牧野莉央
