更年期になると、「急に顔が熱くなる」「汗が止まらない」「眠りが浅い」「体重が増えやすくなった」と感じる方は少なくありません。
これらの症状は女性ホルモンであるエストロゲンが減少することが大きな原因ですが、最近の研究では「その先で何が起こっているのか」が少しずつ解明され、新しい治療法の開発も進んでいます。
エストロゲンは体の司令塔
エストロゲンは妊娠や月経だけでなく、脳・骨・血管・皮膚・脂肪など全身に働く大切なホルモンです。
通常は、エストロゲンが十分に分泌されると脳へ「これ以上作らなくても大丈夫」という信号(ネガティブフィードバック)が送られ、ホルモンのバランスが保たれています。
しかし更年期になるとエストロゲンが急激に減少し、このブレーキが効かなくなります。その結果、脳内の神経ネットワークが過剰に働き、さまざまな更年期症状が現れると考えられています。
ホットフラッシュの原因は「体温調節の誤作動」
更年期を代表する症状がホットフラッシュです。
最近の研究では、「キスペプチン」と「ニューロキニンB(NKB)」という脳内物質が重要な役割を担っていることが分かってきました。
エストロゲンが減少すると、このキスペプチン・NKBの働きが強くなり、脳の体温調節中枢が影響を受けます。その結果、実際には暑くないのに突然体が「暑い」と判断し、顔がほてったり大量の汗が出たりするのです。
さらにホットフラッシュは夜間にも起こるため、睡眠の質が低下し、「何度も目が覚める」「朝疲れが残る」といった睡眠障害につながることも少なくありません。
新しい治療薬「NKB拮抗薬」に期待
海外では現在、このNKBの働きを抑えるNKB拮抗薬の研究が進んでいます。
臨床試験では、ホットフラッシュの回数や重症度が改善するだけでなく、睡眠の質も向上するという結果が報告されています。
従来はホルモン補充療法(HRT)が中心でしたが、ホルモンを補充しない新しい選択肢として注目されています。
日本ではまだ広く普及していませんが、今後の発展が期待される治療の一つです。
更年期に太りやすくなる理由
閉経後、「以前と同じ食事なのに体重が増える」という方は多くいます。
もちろん運動量や筋肉量の低下も関係しますが、最近はオキシトシンというホルモンにも注目が集まっています。
オキシトシンは「幸せホルモン」として知られていますが、実は食欲や脂肪の蓄積、体重の調節にも関わっています。
動物実験では、閉経を再現したモデルでオキシトシンが減少し、体重や脂肪量が増加しました。一方、オキシトシンを補充すると食事量が減り、体重や脂肪量も改善しました。
現時点では動物実験が中心で、人への効果は今後さらに検証が必要ですが、更年期の代謝改善につながる可能性が期待されています。
オキシトシンは日常生活でも増やせる?
オキシトシンは薬だけではなく、日常生活でも増えることが知られています。
例えば、
- 愛犬などペットとの穏やかなふれあい
- 家族とのスキンシップ
- 優しく心地よいマッサージ
などによって分泌が促されるという報告があります。
ストレスを和らげるだけでなく、心身の健康維持にも役立つ可能性があります。
プラセンタにも新たな研究
講演ではプラセンタエキスについても紹介されました。
動物を用いた現在までの研究では、大きな悪影響は認められておらず、安全性について引き続き検討が進められています。ただし、更年期症状への効果については今後さらなる研究が必要な段階です。
まとめ
更年期症状は「年齢だから仕方ない」と我慢するものではなく、科学の進歩によって原因が少しずつ明らかになってきています。
特に今回紹介されたキスペプチン・NKB経路やオキシトシンは、更年期医療の新しいキーワードです。
もちろん今回紹介した内容には動物実験の結果も含まれており、すべてがすぐに人へ応用できるわけではありません。しかし、今後の研究が進めば、ホルモン補充療法以外の新しい治療選択肢が増える可能性があります。
更年期症状でお悩みの方は、一人で我慢せず、婦人科や更年期外来で相談することが大切です。適切な治療や生活習慣の見直しによって、毎日をより快適に過ごせる可能性があります。
統括部長 牧野莉央

