「実年齢より若く見えますね。」
こんな言葉を聞いたことがある方は多いと思います。しかし、見た目の若さだけで本当に体の中まで若いのでしょうか?
近年の研究では、実年齢とは別に、体がどれくらい老化しているかを表す「生物学的年齢」という考え方が注目されています。
今回の講演では、この生物学的年齢をAIで高精度に測定し、一人ひとりに合った健康管理を目指す最新研究が紹介されました。
「生物学的年齢」とは?
例えば、同じ50歳でも、
- とても元気で病気が少ない人
- 持病が多く老化が進んでいる人
では、体の状態は大きく異なります。
この「体の本当の年齢」を評価するのが、生物学的年齢です。
実年齢だけでは分からない健康状態や老化の進み具合を知ることで、将来の病気を予防しようという考え方です。
DNAは変わらなくても「使われ方」は変わる
今回の研究で鍵となるのがエピジェネティクスという分野です。
少し難しい言葉ですが、簡単にいうと、
「DNAそのものは変わらなくても、どの遺伝子が働きやすいかは生活習慣や加齢によって変化する」
という仕組みを研究する学問です。
食事、運動、睡眠、喫煙、ストレスなど、これまでの生活習慣はDNAに「しるし」のような変化を残します。
研究では、この「しるし(DNAメチル化)」をAIで解析することで、その人の老化の進み具合を評価しています。
AIが健康寿命を予測する
今回紹介された「EM-AI age」は、日本人のデータをもとに開発されたAIモデルです。
約6,500人以上の日本人を長期間追跡した大規模研究のデータを学習し、
- 生物学的年齢
- 将来の病気のリスク
- 死亡リスク
などを予測できる可能性が示されています。
例えば、実年齢が56歳でも、生物学的年齢が65歳と判定される方では、将来の健康リスクが平均より高い可能性があることが分かってきました。
もちろん、「必ず病気になる」という意味ではありませんが、生活習慣を見直すきっかけとして活用できる可能性があります。
目的は「寿命を当てること」ではない
AIが将来を予測すると聞くと、「寿命が分かってしまうの?」と不安になるかもしれません。
しかし、この研究の目的は寿命を当てることではありません。
大切なのは、
「今の生活を改善すれば、未来を変えられる可能性がある」
ということです。
もし生物学的年齢が実年齢より高かった場合でも、食事や運動、睡眠などを改善し、その後もう一度測定することで、体の変化を確認できる可能性があります。
いわば、健康診断より一歩進んだ「未来の健康診断」を目指しているのです。
AIが一人ひとりに合った健康管理を提案する時代へ
研究では、
- 生物学的年齢を測定する
- 将来の病気のリスクを予測する
- 一人ひとりに合った生活習慣や健康管理を提案する
- 数か月後に再検査して効果を確認する
という流れが構想されています。
現在は研究・開発段階ですが、将来的には健康寿命を延ばすための新しい医療として期待されています。
さらに進化するAI研究
講演では、現在開発中の「LEM」という新しいAIについても紹介されました。
これは、これまで以上に膨大な日本人のデータを学習し、病気のリスク予測をさらに高精度に行うことを目指した世界初の取り組みです。
AIの進歩によって、「病気になってから治療する医療」ではなく、「病気になる前に予防する医療」が今後さらに発展していく可能性があります。
まとめ
これまで健康診断では、現在の健康状態を知ることが主な目的でした。
しかし今後は、AIとエピジェネティクスを組み合わせることで、「今の体がどれくらい老化しているのか」「将来どのような病気のリスクがあるのか」をより詳しく評価できる時代が来るかもしれません。
もちろん、今回紹介された技術はまだ研究・発展段階であり、今後さらに多くの検証が必要です。
それでも、AIを活用した予防医療は今後の医療を大きく変える可能性を秘めています。
年齢は変えられませんが、「健康的な老化」は日々の生活習慣によって変えられる可能性があります。未来の医療は、病気を治すだけでなく、一人ひとりが健康に年齢を重ねるためのサポートへと進化していくのかもしれません。
統括部長 牧野莉央
