「野菜をたくさん食べましょう」「食物繊維を摂りましょう」と言われたことがある方は多いと思います。
しかし、食物繊維が実際にどのような働きをしているのかをご存じでしょうか。
近年の研究では、食物繊維は便秘改善だけでなく、糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病の予防や改善、さらには認知症やがん、サルコペニア(筋肉量の低下)にも関わることが分かってきています。
今回は、食物繊維が私たちの健康に与える影響について、最新の知見をもとに解説します。
〇食物繊維は生活習慣病対策の基本
現在の糖尿病、高血圧、脂質異常症の各種ガイドラインでは、野菜や海藻、きのこ類、果物などを積極的に摂取し、食物繊維を増やすことが推奨されています。
実際に糖尿病患者さんを対象とした大規模研究では、食物繊維を多く摂取している人ほど、
・ヘモグロビンA1cの改善
・空腹時血糖の改善
・LDLコレステロールの低下
・中性脂肪の低下
・BMIの低下
が認められました。
さらに注目すべきことに、1日35g程度の食物繊維を摂取している人は、20g程度しか摂取していない人と比べて死亡リスクが約35%低く、最も多く摂取しているグループでは約45%低下していたと報告されています。
また、心血管疾患や高血圧患者さんを対象とした研究でも、食物繊維の摂取量が多いほど血糖値やLDLコレステロールが改善し、死亡率が低下することが示されています。
〇認知症や筋力低下の予防にも期待
食物繊維の効果は生活習慣病だけにとどまりません。
40歳以上の約6000人を対象とした調査では、食物繊維を多く摂取する人ほど筋肉量や握力が高いことが報告されています。
高齢化社会において問題となるサルコペニアやフレイル予防にも役立つ可能性があります。
さらに認知症との関連も注目されています。
日本人約3700人を15年間追跡した研究では、食物繊維摂取量が多い人ほど認知症の発症リスクが低く、最も多く摂取していたグループでは発症リスクが約26%低下していました。
特に水溶性食物繊維でその効果が顕著に認められています。
〇がん予防との関係
近年のメタアナリシスでは、食物繊維の摂取量が多いほど、
・大腸がん
・乳がん
・前立腺がん
・膵がん
・子宮体がん
などの発症リスクが低下する可能性が示されています。
また、日本人約9万人を17年間追跡した研究では、食物繊維摂取量が多いほど男女ともに全死亡率が低下していました。
食物繊維は単なる「お通じ改善成分」ではなく、健康寿命を延ばす重要な栄養素といえます。
〇なぜ食物繊維は体に良いのか?
そのカギを握るのが「短鎖脂肪酸」です。
食物繊維は人間の消化酵素では分解されません。そのため大腸まで届き、腸内細菌によって発酵されます。
この過程で産生されるのが、
・酪酸
・プロピオン酸
・酢酸
などの短鎖脂肪酸です。
近年、これらの短鎖脂肪酸こそが食物繊維の健康効果の中心的役割を担っていることが分かってきました。
〇腸を守り、全身の炎症を抑える
短鎖脂肪酸は大腸の細胞にとって重要なエネルギー源です。
腸の粘膜を健康に保つことで、
・腸のバリア機能を強化する
・有害物質の侵入を防ぐ
・腸内環境を整える
・慢性的な炎症を抑える
といった働きを発揮します。
また、免疫細胞にも作用し、過剰な炎症反応を抑えることが知られています。
慢性炎症は糖尿病、動脈硬化、認知症、がんなど多くの病気の共通基盤と考えられており、食物繊維が幅広い病気の予防に役立つ理由の一つとされています。
〇食欲を抑え、体重管理にも役立つ
短鎖脂肪酸は腸や脂肪組織の受容体に作用し、満腹ホルモンの一種であるPYYの分泌を促します。
その結果、
・食欲の抑制
・体重管理
・脂肪肝改善
などにも良い影響を与えることが期待されています。
さらに、心血管疾患や腎機能の保護、感染症予防などにも関与すると考えられています。
〇実は多くの日本人で不足している
日本人の食物繊維摂取量は、1950年代には1日20g以上ありました。
しかし食生活の変化に伴い減少し、現在は平均18g前後とされています。
一方で推奨される摂取量は、
・男性:21g以上/日
・女性:18g以上/日
であり、理想的には24g以上が望ましいとされています。
つまり、多くの方があと5g程度は増やしたい状況です。
〇食事だけで十分摂るのは意外と難しい
「野菜をたくさん食べれば大丈夫」と思われるかもしれません。
しかし、野菜を400g食べても含まれる食物繊維は約12g程度です。
十分量を摂取するには、
・豆類
・おから
・オートミール
・海藻類
・きのこ類
・ブロッコリー
などを意識的に取り入れる必要があります。
〇注目されるグアーガム分解物(PHGG)
近年は食物繊維のサプリメントも注目されています。
その一つが「グアーガム分解物(PHGG)」です。
グアー豆由来の水溶性食物繊維で、比較的ゆっくり発酵するためガスが発生しにくく、お腹の張りが少ないことが特徴です。
2型糖尿病患者さんを対象とした研究では、血糖値の大きな改善は認められなかったものの、腸内で酪酸やプロピオン酸といった短鎖脂肪酸が増加することが確認されました。
これは腸内環境改善につながる可能性を示す結果として注目されています。
☆まとめ
食物繊維は便秘改善だけでなく、糖尿病、高血圧、脂質異常症、認知症、サルコペニア、さらにはがん予防まで幅広い健康効果が期待される栄養素です。
その中心となるのが、腸内細菌によって作られる短鎖脂肪酸です。
健康やアンチエイジングのためには、単にカロリーを気にするだけでなく、「腸内細菌のエサになる食物繊維を十分に摂る」という視点が非常に重要です。
まずは毎日の食事で野菜や豆類、海藻類、きのこ類を意識して増やし、不足する場合には食物繊維サプリメントを活用することも選択肢の一つといえるでしょう。
統括部長 牧野莉央
