「部屋に絵を飾ると気分が良くなる気がする」「お気に入りのアートを見ると落ち着く」。
そんな経験をしたことはないでしょうか。
実は近年、アートは単なるインテリアではなく、心や身体の健康に良い影響を与える可能性があるとして注目されています。積水ハウスと慶應義塾大学の共同研究では、「住宅にアートを取り入れることで、居住者のウェルビーイング(心身ともに良好な状態)が向上するか」が検証されました。
今回は、その興味深い研究結果をご紹介します。
〇アートと健康の関係が注目される理由
病院や介護施設では以前から「ホスピタルアート」が導入されており、患者さんの不安軽減や満足度向上に役立つことが報告されています。
一方で、私たちが最も長い時間を過ごす「自宅」において、アートがどのような影響を与えるかについては十分な研究が行われていませんでした。
そこで今回、住宅空間でのアートの効果を科学的に検証する研究が実施されました。
〇住宅展示場で行われた実験
研究では20代から60代までの一般生活者30名が参加しました。
住宅展示場のリビング、ダイニング、玄関において、AR(拡張現実)技術を使い「アートがある空間」と「アートがない空間」を体験してもらい、その際の心理的・生理的変化を比較しました。
評価項目は以下の通りです。
- 幸福感や意欲などのポジティブ感情
- 不安や緊張などのネガティブ感情
- 室内環境による回復感
- 心拍数や自律神経の状態
〇アートはポジティブな感情を高める
研究では、リビングにアートがある場合、幸福感や意欲、高揚感などのポジティブ感情が有意に向上しました。
また、玄関で外出するシーンでも気分の向上がみられました。
つまりアートは、
- 気持ちを前向きにする
- 活力を高める
- 創造性を刺激する
といった効果を持つ可能性があります。
忙しい日常の中で、ふと目に入るお気に入りの作品が気持ちを切り替えるきっかけになっているのかもしれません。
〇帰宅時のストレスを和らげる可能性も
研究では、帰宅時の玄関空間において、アートを見ることでネガティブ感情が減少する傾向も確認されました。
仕事や家事、人間関係などで疲れた状態で帰宅した際に、視覚的な刺激としてのアートがストレス緩和に役立つ可能性があります。
「家に帰るとホッとする」
そんな感覚を生み出す要素の一つとして、アートが働いているのかもしれません。
〇自律神経にも良い影響が期待される
さらに興味深いのは、生理学的な変化です。
研究では心拍データから自律神経の状態を分析したところ、リビングでアートを鑑賞した際にリラックス状態を示す傾向が確認されました。
特に20〜50代で血圧が正常な人では、
- 交感神経の過剰な緊張が抑えられる
- リラックスしやすくなる
という変化がみられました。
実際に一部の参加者では、アートがない空間で見られた緊張状態のピークが、アートを設置したことで減少していました。
これはアートが自律神経のバランスを整える可能性を示唆する結果です。
〇アートは「心の回復力」を高めるかもしれない
今回の研究では、ポジティブ感情が高い人ほど「回復感」も高いことが確認されました。
回復感とは、
- 気持ちが落ち着く
- 疲れが癒やされる
- 心がリフレッシュされる
といった感覚を指します。
現代人はストレスにさらされる機会が多く、心身の回復力を高めることが健康維持に欠かせません。
アートはその回復力を支える身近なツールになり得る可能性があります。
〇今日からできる「アートのある暮らし」
アートと聞くと高価な絵画を想像する方もいるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
- 好きな写真を飾る
- ポスターや版画を取り入れる
- 旅行先で購入した作品を飾る
- 子どもが描いた絵を額装する
こうした身近なものでも十分です。
大切なのは、「見ていて心地よい」と感じられる作品を生活空間に取り入れることです。
☆まとめ
近年の研究では、住宅内のアートが幸福感や意欲を高め、ストレスや緊張を和らげる可能性が示されています。
さらに、自律神経のバランス改善や心の回復力向上にもつながる可能性があり、アートは単なるインテリアではなく、健康的な暮らしを支える一つの要素として注目されています。
睡眠、運動、食事といった健康習慣に加えて、「アートを楽しむこと」も新しいウェルビーイング習慣になるかもしれません。
統括部長 牧野莉央
