ヒアルロン酸注入は、しわやたるみの改善、涙袋形成、輪郭形成など幅広い目的で行われる美容医療です。切開を伴わず比較的手軽に受けられる治療ですが、医療行為である以上、合併症やトラブルが起こる可能性があります。
今回は、ヒアルロン酸注入で起こりうる代表的な合併症とその対応について解説します。
◎よくみられるトラブル
① ヒアルロン酸の過注入
ヒアルロン酸を必要以上に注入すると、不自然な膨らみや輪郭の変化が生じます。
② ヒアルロン酸の過少注入
注入量が少なすぎる場合は、期待した効果が十分に得られません。
ただし、追加注入によって調整できるため、大きな問題となることは少ないでしょう。
③ アレルギー反応
現在使用されているヒアルロン酸製剤は安全性が高く、アレルギー反応は非常にまれです。
しかし、ごくまれに赤みや腫れ、かゆみなどの反応が起こることがあります。
④ チンダル現象
目元の皮膚は体の中で最も薄い部位の一つです。
ヒアルロン酸が本来より浅い層に注入されると、光の屈折によって青っぽく透けて見えることがあります。これを「チンダル現象」と呼びます。
患者様からは、「クマが濃くなった」「目の下が黒っぽく見える」と相談されることがあります。実際にはクマそのものではなく、浅い層のヒアルロン酸が透けて見えている状態です。
◎ヒアルロニダーゼによる修正
過注入やチンダル現象などのトラブルに対しては、「ヒアルロニダーゼ」というヒアルロン酸分解酵素を使用します。
ヒアルロニダーゼを問題となっている部位へ注入すると、注入されたヒアルロン酸が分解され、数日かけて自然な状態へ改善していきます。
ヒアルロン酸治療の大きなメリットは、このように修正が可能であることです。
◎最も注意すべき合併症
★ 血管塞栓
ヒアルロン酸注入において最も重篤な合併症が「血管塞栓(動脈塞栓)」です。
ヒアルロン酸が誤って動脈内へ注入されることで血流が遮断され、皮膚や眼への血液供給が途絶えてしまう状態です。
頻度は非常に低いものの、発生した場合は迅速な対応が必要です。
〇血管塞栓の症状
注入直後から
- 強い疼痛
- 急激な皮膚の色調変化
- 網目状・まだら状の蒼白化
が出現します。
患者様が思わず叫ぶほどの強い痛みを訴えることもあります。
その後、
- 紫色への変化
- 微小な水疱形成
- 皮膚壊死
へ進行する可能性があります。
さらに重篤なのが眼への血流障害です。眼動脈や網膜動脈に塞栓が起こると、突然視力を失う(失明)という症状が発生します。この場合は一刻を争う緊急事態です。
〇血管塞栓への対応
最も重要な治療はヒアルロニダーゼの大量投与です。
注入部位およびその周辺へヒアルロニダーゼを広範囲に注入し、閉塞したヒアルロン酸を可能な限り早く溶解させます。
ヒアルロン酸で閉塞した動脈をヒアルロニダーゼ溶液に浸漬するとヒアルロン酸が溶解することが確認されており、血管内へ直接注入しなくても周囲組織から浸透して効果を発揮すると考えられています。
また失明症状が出現した場合には、極めて短時間での対応が求められ、眼科との連携が必要になります。
◎遅発性合併症
ヒアルロン酸注入後、数週間から数か月経過してから生じるトラブルもあります。
〇炎症性結節・腫脹
しこりや腫れとして現れることがあります。
原因としては、
- 感染(膿瘍)
- 異物反応(肉芽腫)
- Biofilm感染
などが考えられます。
〇膿瘍
- 切開排膿(ドレナージ)
- 抗菌薬投与
が必要となります。
〇肉芽腫
ヒアルロニダーゼによる融解が有効です。
◎まとめ
ヒアルロン酸注入は
- 過注入
- チンダル現象
- アレルギー反応
- 血管塞栓
- 感染
などの合併症が起こる可能性があります。
特に血管塞栓は失明や皮膚壊死につながる可能性があるため、解剖学的知識を十分に持ち、緊急時にヒアルロニダーゼを適切に使用できる医療機関で治療を受けることが重要です。
ヒアルロン酸注入は「入れる技術」だけでなく、「万が一のトラブルに対応できる技術」も同じくらい重要であることを理解しておきましょう。
統括部長 牧野莉央
