「アクネ菌」という名前から、ニキビの原因となる「悪い菌」というイメージを持っている方は多いのではないでしょうか。
確かに、Cutibacterium acnes(アクネ菌)はニキビとの関係が深い細菌です。しかし実は、アクネ菌はニキビがない健康な皮膚にも存在する、代表的な皮膚常在菌の一つです。
つまり、「アクネ菌がいる=ニキビになる」わけではありません。
重要なのは、アクネ菌の種類や量、皮脂、毛穴の状態、皮膚バリア、ほかの常在菌とのバランスなど、皮膚全体の環境です。
〇アクネ菌はどこにいる?
アクネ菌は、特に皮脂腺や毛穴の奥に多く存在しています。
皮脂を栄養源として利用する性質があるため、皮脂分泌が多い顔や胸、背中などに多くみられます。
また、アクネ菌は酸素が少ない環境を好むため、毛穴の奥のような環境はアクネ菌にとって生育しやすい場所です。
こうした特徴から、皮脂分泌が増えたり、毛穴が詰まったりすると、アクネ菌が増殖しやすい環境がつくられます。
〇なぜアクネ菌がニキビに関係するの?
ニキビの発生には、
① 毛穴の角化異常
② 皮脂分泌の増加
③ 毛穴の詰まり
④ 炎症
など、複数の要因が関係しています。
アクネ菌は、その中でも特に炎症の形成に関係しています。
毛穴に皮脂や角質がたまると、毛穴の内部はアクネ菌が増殖しやすい環境になります。
アクネ菌は皮脂を分解する酵素などを産生し、その過程で生じる物質が皮膚の免疫反応を刺激することで、炎症が起こると考えられています。
これが、赤く腫れたニキビや膿を伴うニキビにつながることがあります。
ただし、現在では「アクネ菌の数が増えたからニキビになる」とだけ考えるのは適切ではないとされています。
〇「アクネ菌の量」より「種類」が重要?
近年、特に注目されているのが、アクネ菌にはさまざまなタイプ(菌株)が存在するということです。
実は、健康な人の皮膚にもアクネ菌は非常に多く存在しています。
それにもかかわらず、すべての人がニキビになるわけではありません。
そこで研究が進められているのが、「どのようなアクネ菌が存在しているのか」という違いです。
一部の菌株は炎症を起こしやすい性質を持つ一方で、別の菌株は皮膚環境を安定させる方向に働く可能性があることが分かってきています。
つまり、「アクネ菌=悪玉菌」ではなく、「アクネ菌の中にもさまざまなタイプがあり、皮膚環境との組み合わせが重要」という考え方が現在の皮膚科学では重要になっています。
〇アクネ菌は肌にとって悪いことばかりではない
実はアクネ菌には、皮膚にとってプラスの働きもあります。
アクネ菌が作り出す物質の一つにプロピオン酸があります。
プロピオン酸などによって皮膚表面が酸性に保たれることは、特定の病原性微生物の増殖を抑えることにつながる可能性があります。
また、アクネ菌は他の皮膚常在菌と相互作用しながら、皮膚の微生物環境の一部を構成しています。
そのため、健康な皮膚からアクネ菌を完全になくすことが「美肌」に直結するわけではありません。
〇ニキビ治療では「アクネ菌を減らす」だけではない
ニキビ治療では、アクネ菌をターゲットにした治療が行われることがあります。
例えば、過酸化ベンゾイル(BPO)などはアクネ菌に対して抗菌作用を持ち、ニキビ治療に広く使用されています。
しかし、ニキビ治療の目的はアクネ菌だけを排除することではありません。
毛穴の詰まり、皮脂分泌、角化異常、炎症など、ニキビを形成する複数の要素を総合的にコントロールすることが重要です。
そのため、自己判断で強い殺菌作用のある製品を繰り返し使用するよりも、自分のニキビの状態に合った治療を選択することが大切です。
☆まとめ
ここまで紹介してきた表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌と同じように、アクネ菌も「善玉菌」「悪玉菌」と単純に分類できるものではありません。
皮膚にはさまざまな微生物が共存しており、そのバランスによって皮膚の状態が保たれています。
過剰な皮脂、毛穴の詰まり、乾燥、摩擦などを適切にコントロールし、皮膚のバリア機能を保つことも重要です。
アクネ菌は、私たちの肌に普通に存在している身近な常在菌です。
「アクネ菌=ニキビの原因」というイメージだけでなく、健康な肌にも存在する菌であり、その菌の種類や皮膚環境とのバランスが重要だと知っておくと、ニキビやスキンケアに対する考え方も少し変わってくるかもしれません。
統括部長 牧野莉央
